再び翁に遊ぶ ガラクタ美術館  謎解きの巻 

   


            再び翁に遊ぶ        ガラクタ美術館  謎解きの巻 

         昨年の一月に、この能面「翁」をこのブログで取り上げたことがある。それは裏面に刻まれた刻印のうち
         解読出来ない一文字についてであった。下の写真に示した能面の裏に刻まれた四文字「十千沽?」のうち
         最後の一文字が読めなかったのである。
         ところが先日、篆刻家の友人が、同じく書家の友人と一緒に我が家に遊びに来られたので、例の懸案の
         翁を見せて、そのことを話したら流石さすがで、帰られて早速メールで謎の字は「酒」だとお教え頂いた。
d0156718_1761434.jpg

d0156718_1765857.jpg


d0156718_17125850.jpg


         前回にも紹介した中国の漢詩を再掲するが、謎の四文字「十千沽?」は盛唐の詩人崔敏童の有名なこの
         漢詩を踏まえたものであることはほぼ間違いないと思われる。


         宴城東荘   城東の荘に宴す      崔敏童(さいびんどう) 作

         一年始有一年春   一年始めて 一年の春あり
         百歳曾無百歳人   百歳曽て 百歳の人なし
         能向花前幾囘醉   よく花前に向って 幾回か酔わん
         十千沽酒莫辭貧   十千もて酒を沽う 貧を辞することなかれ


         (註) 「十千」(じっせん) … 一万銭のこと。魏の曹植(192~232)の「名都篇」に
                           「帰来宴平楽、美酒斗十千」とあるによる。
             「沽う 」(か)う… 買う。

         一年の始めには、必ず春はやってくる。
         人生百歳と言うが、百歳まで生きた人は誰もいないのだ。
         春の盛りに、花を肴に酔うことが出来るのは、これから先、何回あるというのだ。
         さあ飲もう、一万銭で美酒一斗買って宴会だ、それで貧乏したって構うもんか。


        
        
         さて、本題に戻って、この翁の面に刻まれた文字は、一万銭で何を買うと書いているのだろうと言う謎は、
         この漢詩の字句をそのまま「十千沽酒」と刻んでいるということになったわけである。

         その昔、なけなしの銭を叩いて此の翁面を手に入れた元の持主は、この詩を踏まえて「人生そんなに永く
         ないんだ、気に入ったものを購めて、それで貧乏したって構うもんか」
とその心意気をこの四文字に託して
         刻んだのだろう。それにしても、漢詩を踏まえて更に酒の一文字には篆書体の酒を置いたところなどは、
         この翁の持ち主は学識豊かな文人であり、改めて先人の遊び心にも脱帽した事である。

         これが謎解きの顛末であり、ガラクタ美術館の逸品は、こうして謎が解け翁を介して先人と二度も遊ぶことが
         出来、さらに愛着を深めることになったわけで、それにつけても持つべきものは佳き友人である。

d0156718_1725935.jpg

        これは懸案の難問を見事解決してくれた篆刻家の友人に以前から頼んでいたもので、見事なのは当たり前だが、
        重ねてお礼を申さねばならない。

d0156718_17135147.jpg

        「不二天山」は私の雅号で、昔から山が好きな私が山頂で遊んでいるようなこの刻印は私にぴったりの雰囲気
        で早速ガラクタ美術館の蔵品に登録したことである。

        ついでに余談を一つ、「不二天山」の不二は藤本のフジであるが、実はこの不二には別の想いいれが籠められ
        ている。 それは昔の有名な能面師は秀吉や家康から天下一の称号を名乗ることを許され、能面の裏に
        「天下一是閑」「天下一河内」などの焼印を捺していた。私は能面の裏に焼印や名前を入れない主義なのだが、
        私の能面は天下一ではないけれど、天下に二つとない「不二」なのは確かだから、その想いも籠め雅号印に
        「不二天山」と刻んでいるのである。

by kame0401 | 2013-04-09 16:59 | 私のガラクタ美術館 | Comments(2)