2012年 12月 12日 ( 1 )

開田高原の秋その二

      旅日記「開田高原の秋」 (その2)    kameの足跡・1960.10.7~
 

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10月8日の(続き)
      20分も下ると関谷の部落が見えてきた。稲刈りのおばさんに道を尋ねる。これから向かう先の峠は
      御境(おさかい)峠とよぶのだそうだ。キセキレイが4羽飛び立つ。アケビを2つ、口の中でひやりとし
      クリームが舌をなでる。秋の味である。青空に白い雲がゆっくり流れている。渓流に沿った路は開け
      明るい光で一杯である。マツムシソウとリンドウが多い。マツムシソウの方は実になっているものも
      多い。コガラが目の前の枝にとまり、また飛び去る。秋とは言え登りにかかると汗ばむ。また御岳の
      頭が尾根の上にその姿を見せた。
      ハゼの真赤な葉が黄緑の木立の中で際立って美しい。じぐざぐ路を登ると梢をならして涼しい風が
      吹き渡る。峠が近付くと流石に紅葉も美しい。向かいの斜面に見える白樺の幹の白、それは空の
      青さと対照的である。

      御境峠、そこは木立に囲まれた静かな峠だった。そこからは御岳の雄姿は望めないが、信濃と飛騨
      の国境である。そこには古い石の道標が頭を欠いて横たわっているだけだった。そして路はそのまま
      だらだらと飛騨側へ下っていた。
      峠を過ぎると、すぐそこまで車道が来ていた。やがて左手に、また御岳の麓が見え始めたころ、
      錦秋の谷間に留野原の家並みが見えた。火山灰の真っ黒な土の道端を細い溝で清水が流れて
      いる。御岳は頭を完全に雲に隠してしまった。留野原で幕岩川に沿った路にる。小さなその渓流は
      紅葉に映えてきれいだ。開けた谷間に広い道がまっすぐ続いている。白樺の多い痩せたこの土地を
      開いて点々と農家の屋根が見える。(12:00)尾根を廻ると前方に乗鞍の大きな裾野が見えてきた。
      やはり頂きは雲の中である。落合という部落につく。

      ここから小さな尾根を一つ越えると日和田だと言う。(12:50)
      峠に立って振り返ると、先程通った落合の右上方に大きく御岳が覆いかぶさるように、その裾を
      広げて黒黒と聳えている。峠を下りかけるとハゼの真赤な葉ごしに、谷間に広がった日和田の家並
      みが見下ろせる。じぐざぐ道を駆け下ると、そこにはどっしりとした造りのくすんだ家があった。
      どこも今は穫入れの最中で忙しそうである。この辺りで泊めてくれそうな家を煙草屋で聞き、中村
      さん宅を訪ねて一宿を乞う。(1:30)

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      荷を置いてぶらりとカメラとスケッチブックを手に出かけるが、大きな家に圧倒されて絵にならない。
      辻々の馬頭観世音菩薩は、その昔、馬に榮えた飛騨の面影を伝えている。

      戻って囲炉裏の傍で地図を広げる。時代を経た大きな囲炉裏部屋、猫がじっと火のそばでうずく
      まり、柱時計が時を刻む音以外に何も聞こえない。みんな畑に出ているのか子供の姿さえ見えない。
      夕方後ろの斜面を登る。御岳は頂上に僅か絹をまとったような雲がついている。夕空にいわし雲が
      長くそして広がっている。大きな松の根元、赤と黄色のハゼの葉に覆われた大小30余りもの馬頭
      観世音、古い年号も見え、そこには馬と生き馬と栄えた飛騨の山村の祈りが込められている。
      御岳が夕映えで紅く、唐松だろうか燃えるような黄色が点々と深緑の間に見える。ようやく暮色に
      包まれ始めた日和田の里には、あちこちから炊煙が立ち上り、静かに暮れようとしている。
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10月9日  十三曲峠を経て野麦の里そして野麦峠へ
      朝日をいっぱいに受けた谷間は明るく光輝いている。梅雨に濡れた畦を登ると、後ろで百舌鳥が
      啼く。(7:20)昨日の馬頭観世群のところまで来る。ここから十三曲峠の路は左の山あいを登って
      いる。露に濡れた観音はやはり静かに佇んでいる。昨晩囲炉裏端で聞いた話では、近年馬を飼う
      家も少なくなり、あの家でも昨年牛に替えたとか。かっては盛大な供養を年ごとにしたと言うこれら
      の馬頭観音も時勢の波に忘れ去られようとしているのだろうか。そう思って見る石の群像は思いな
      しか、昨日より寂しく感じられた。
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      御岳が雲一つ無く、大きないわし雲を背に聳えている。ここから見る御岳は全く姿が良い。カケス
      が啼く。今日もリンドウとマツムシソウの路である。ちらほら可憐なナデシコの花も見える。バサバサ
      と羽音を立ててキジバトが飛び出す。モグラが路端で死んでいる。最初の尾根の上に出た。アオ
      ゲラが2羽枯れ木を廻っている。御岳が左に永く裾野を引いて見える。日和田の部落が谷間に
      沈んでしまった(8:00)。栗を齧ってみる。どうやら路を取り違えたらしい(8:40)、引き返し元の
      分かれ道から右にとる。
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      二つ目の尾根を越える。小さな馬頭観世音、路は尾根を横にまいている。カケスが2羽、アカハラ
      、山ブドウが紅葉している、ヤマドリだかキジが番で飛び出す。いよいよ藪こぎである。ともすれば
      路を見失いそうになる、また一つ尾根を越えた(9:20)。大きな尾根をまた一つ(9:35)。ここで
      十三曲峠も終わりのようだ。ここからクマ笹の中のあるか無いかのジグザグ路をがむしゃらに下る
      と谷筋に出た。いや全く大変な藪こぎだった。正面に乗鞍がほんのうっすらと雪らしきものを掛け
      てのっそりと聳えている。木馬路のところでミソサザイが飛び出す。ゴジュウガラ。藪こぎで体中
      ヌスビトハギとヤブジラミだらけである。流れで顔を洗う、小休止だ(10:20)

      路は右岸、左岸と渡りながら木馬路は崩れかかって崖の上で無くなっていたりする。尾根を廻り
      赤坂谷の方に入ると、立派な路があり飯場があった(11:00)。休んで茶でもと言われて内に入る。
      囲炉裏の傍で濡れたズボンの裾を乾かすうちに昼になり、皆が帰って来たので立とうとすると、
      まあ飯でも食ってゆかんかと誘われ、それではとみそ汁に漬物で、熱いご飯をご馳走になる(12:00)。
      そこを辞して直ぐ左へ細い路を下ると川原へ出る。丸木橋を渡って対岸の路へ上がる。そこは
      もう木曽街道である。


                            <次回に続く>
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by kame0401 | 2012-12-12 18:59 | 旅のつれづれに | Comments(0)

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