旅日記「開田高原の秋」 (その3)

          旅日記「開田高原の秋」 (その3)     kameの足跡・1960.10.7~


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 10月9日の(続き)

         楓の紅葉の間に益田川が白く光っている。瀬音が谷にこだまし、光に満ちた街道である。
         コゲラが啼く。朴の木の紅い実をゴジュウガラが突いている。
         濁河との出会いを過ぎる(1:00)。対岸の上で斧の音がする、バリバリと大木が崩れ落ち
         る音。ススキの陰に野麦の里が見えてきた。岩走る清水に口をつける、冷たい。ホシガラス、
         桂の紅葉が浮かんだように美しい。ホシガラスの啼く野麦の里はソバの軸が紅く、ヒエも熟し
         ている。この山里もいま穫入れで忙しい。ヒエを山のように背負って子供達までがせっせと
         運んでいる(1:30)。寄合渡まで4里だという。今日のうちに野麦峠を越せそうだ。本谷出会(2:00)。
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         半時間ほど行くと広い道と分かれて左へ峠近道と言う道標。コガラ、いよいよ峠の登りが始
         まる。瀬音がどんどん遠くなっていく。じぐざぐ路でヤマカガシが這う。山桜の葉が美しい、
         大きな栃の木の下で休む、流石に登りにかかると汗が流れ、心地よい風が頬を撫でてゆく。  
         はるか下に早や西に傾き始めた秋の陽を受けて野麦の里が光っている。ポトンと栃の実が落ちる(3:00)。
         オオカメノキの紅葉は赤紫、それに赤と黒の実が美しい。尾根に取っ付く。
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         御堂がある、地蔵尊と書いた白い幟が二本ボロボロになって立っている。
         乗鞍岳が真正面だ、殆ど雲に閉ざされているのが、かえってその高さを計り知れないものに
         して、素晴らしい。風を切り唸りを残してアマツバメが盛んに行き交う。
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         路は山の稜線添いに巻き、やがて峠に出た。野麦峠は開けた峠で、五輪の石塔が一つと、
         木の柱だけで組んだ門があり、関所のような構えである。峠の路はそのまま信州側へ急な坂
         で下っていた(3:50)。アマツバメがまた耳元を飛び過ぎる。信州側へ一気に駆け降りると
         15分ほどで下の広い道に出た。ここはまだ秋は浅いようだ。「伐採事務所前」と言うバス停
         がある(4:25)。
         暮れはじめた谷添いの車道をゆく、対岸の白樺のコバルトグリーンの葉が色付き始めている。
         トラツグミが啼く。川浦に着く(5:10)
         ここで荷を下ろしていたトラックが寄合渡まで乗せてやると言う。5:42に寄合渡に着いた、
         すぐ前の大和屋という旅館に入る。窓の下に奈川が流れているのが夕靄のなかに白く見える、
         6:20夕食。明日は6時のバスで松本に向かうことにする。
         秋の山路を巡る旅は終わった。 念願の野麦峠越えるのに、藪を漕ぎ、幾つの峠を越えたことか。
         9:00残ったウイスキーを空けて床に潜る、瀬音のみ。

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(完)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

by kame0401 | 2012-12-14 19:50 | 旅のつれづれに | Comments(0)